淮 南 炭 鉱 万 人 坑

 淮南炭鉱万人坑
安徽省淮南市

 淮南と言われてもなじみのない人が多いと思うが、南京なら良く知っているという人は多いだろう。その南京は、中国華東(華中)地方に属する江蘇省の西端に位置し、江蘇省の西隣にある安徽省のほぼ中央部に淮南が位置する。南京の百数十キロ西方に淮南があるという位置関係になる。
 さて、一九三七年一二月に南京を占領し「南京大虐殺」事件を引き起こした日本は一九三八年六月には准南を占領し、准南炭鉱も支配した。そして、実質的に日本が経営する准南石炭株式会社を設立し、一九三九年の年間採炭量二一・五万トンを五年後には年産二〇〇万トンに増やす計画を策定する。しかし、炭鉱設備の増強はほとんど行なわないで、採炭作業に使役する労工(鉱工)の人数を増員することで増産に対応した。
 淮南炭鉱の労工は他の炭鉱の労工と同じように、良い労働条件を約束するなどとだまして「募集」したり、各地に徴用人数を強制的に割り当てたり、日本兵がいきなり捕まえ連行してきた農民らであり、(不完全な統計によると、)一九四一年三月から一九四四年六月までに強制連行してきた農民らは七万〇六七一人になる。そして、警備司令部・憲兵隊・警備隊・鉱山警察隊が農民らを労工として厳重に管理し、十分な食事も与えないまま毎日一二時間から一六時間も強制労働させ、さらに非人間的な虐待を行なった。そのため、日本の敗戦で解放されるまでに一万三〇〇〇人が死亡し、淮南炭鉱周辺に数カ所の主要な万人坑(人捨て場)が残された。

 
淮南炭鉱大通万人坑


 淮南市の郊外にある淮南炭鉱大通万人坑は、淮南炭鉱周辺に残された主要な万人坑の一つであり、一九六八年から発掘と調査が行なわれた。そして、一通り調査されたあと、遺骨を保護するため発掘現場は再び埋め戻された。しかし、長さ二〇メートル・幅五メートルの発掘現場三区画だけは埋め戻されずに残され、大通万人坑に開設された教育館を訪れる人が万人坑の実態を直接確認できるようにされている。
 淮南炭鉱大通万人坑教育館の正門から構内に入ると、幅・奥行とも数十メートルほどの庭園が整備されていて、庭園奥の正面に、万人坑発掘現場を保存する大きな建物が建っている。庭園の左右両側には、展示室や事務室が入る建屋が並び、正面の万人坑保存館と展示事務棟の建屋が「コ」の字型に配置されている。
 大通万人坑教育館に見学に来た人たちは、左手側の展示事務棟の手前側にある入口から展示室に入り、展示を見ながら展示棟の奥まで行く。そして、突き当りを右に曲がり地下に降りると、そこが、埋め戻されずに残された三区画が保存されている万人坑の発掘現場だ。ガラスで仕切られる幅五メートル・奥行二〇メートルの部屋が、参観者が通る通路に面して三つ並び、長さ二〇メートル・幅三メートル・深さ三メートルほどの発掘された溝(穴)がそれぞれに残され、溝(穴)の中に大量の遺骨が山積みになっている。准南炭鉱で強制労働させられ死亡した犠牲者の遺骨だ。
 万人坑発掘現場を通り抜け一階に上がると別棟の展示室が続く。

 
華中・華東の万人坑と中国人強制連行


 淮南炭鉱という一カ所の事業所だけで、少なくとも七万人以上が強制労働させられ一万三〇〇〇人が死亡した。これだけで、一三五カ所の事業所全体で約四万人が強制労働させられ約七〇〇〇人が死亡した日本国内の中国人強制連行・強制労働全体の被害規模を上回る。そして華中・華東には淮南炭鉱のような事業所がたくさんあったのだろう。
 淮南炭鉱大通万人坑を現認することで、「満州国」と華北だけでなく華中・華東においても大規模な強制連行・強制労働が行なわれたことを確認できた。しかし、華中・華東の強制労働現場として私たちが確認したのは淮南炭鉱だけなので、これからも調査を続けていきたい。

写真:2016年10月23日撮影 

 淮南炭鉱大通万人坑教育館 正門
 正門の外側から教育館の構内が見える。この日は雨が降っている。

 淮南炭鉱大通万人坑教育館 庭園
 正門から教育館の構内に入ったところ。正面奥の大きな建物の中に万人坑発掘現場が保存されている。

 淮南炭鉱大通万人坑教育館 庭園
 写真左手の建物が展示棟。この建屋の中に展示室が並び、写真や史料や立体模型がびっしりと展示されている。正面右寄りの建物は万人坑保存館。

 淮南炭鉱大通万人坑教育館 庭園
 正面の建物が万人坑保存館。写真右端に、右側の展示棟が少しだけ見える。

 展示室内の展示
 炭鉱坑内で採炭作業を強いられる中国人労工の様子を再現する等身大の立体像。

 展示室内の展示
 炭鉱坑内で採炭作業を強いられる中国人労工の様子を再現する等身大の立体像。

 万人坑保存館 地下室
 参観者が通るこの通路の左側に三区画の万人坑発掘現場が並んでいる。写真手前側のガラス窓の中が三区画目の発掘現場。その奥の人が立っているところが二区画目の発掘現場。さらにその奥に一区画目の発掘現場がある。

 万人坑保存館 地下室
 二区画目の発掘現場の前。犠牲者の遺骨がガラス窓越しに見える。その前で三〇分近く直立不動で祈りを捧げる人がいる。

 万人坑保存館 地下室
 二区画目の発掘現場の前。参観者が通る通路からガラス窓越しに万人坑発掘現場が見える。通路に置かれた花は、私たちが犠牲者追悼式を行なったときに供えた供華。

 万人坑保存館 地下室
 祈りは続く。犠牲者の遺骨と向き合い祈りながら何を思いめぐらしているのだろう・・・。

 一区画目の万人坑発掘現場
 発掘現場を保存する部屋は幅五メートル・奥行き二〇メートル。発掘された穴(溝)は幅三メートル・長さ二〇メートル・深さ三メートル。

 一区画目の万人坑発掘現場


 二区画目の万人坑発掘現場
 部屋の大きさと発掘規模は一区画目と同じ。

 二区画目の万人坑発掘現場


 三区画目の万人坑発掘現場
 部屋の大きさと発掘規模は一区画目と同じ。

 三区画目の万人坑発掘現場


 秘密水牢
 淮南大通鉱の南(教育館の正門を出たところ)にある水牢は、日本軍が抗日中国人志士を取調べ拘禁した秘密施設で、一九三九年の春に建設された。外観は、瓦屋根を備える方形の建物で、レンガと漆喰で造られている。水牢の建物内は地上部分と地下部分に分かれ、地上が取調べ室、地下は水牢になっている。
 解放後、足枷・手枷と共に大量の遺骨が水牢の中から発見され引き上げられた。二〇一三年五月に国務院により全国重点文物保護単位として公布されている。

 站后トーチカ
 站后トーチカは旧大通駅(鉄道駅)にある。上部が少し細くなる円筒形の構造で、高さは一四メートル。レンガと石と泥で造られている。大通とその周辺に日本軍が構築した三六基のトーチカの一つであり、日本軍が侵略した鉱区を守る重要軍事拠点である。二〇一三年五月に国務院により全国重点文物保護単位として公布された。




「万人坑を知る旅」index

「 満 州 国 」 の 万 人 坑
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付 録 : 朝 鮮 を 知 る 旅
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付 録 : 日中友好新聞連載記事
        中国本土に現存する万人坑と強制労働現場を訪ねる



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